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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)8550号 判決 1977年12月15日

原告 加藤実

右訴訟代理人弁護士 山下寛

被告 永和不動産 株式会社

右代表者代表取締役 青井忠次郎

被告 株式会社 丸井

右代表者代表取締役 青井忠雄

右被告両名訴訟代理人弁護士 笠井盛男

松本昭幸

鬼倉典正

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、別紙目録記載の土地を明渡せ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

主文同旨

《以下事実省略》

理由

一  原告が本件土地を被告永和不動産に対し、原告主張の条件で賃貸し引き渡したこと、被告永和不動産が被告丸井に本件土地を転貸し、被告両名が本件土地を占有していること、被告永和不動産が、昭和四三年六月分から同四四年一月分までの賃料を支払わなかったこと、そこで原告が同四四年二月一四日被告永和不動産に対し、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし(以下、本件解除(一)という。)、右意思表示は同日被告永和不動産に到達したこと、被告永和不動産が原告主張のように本件賃料を各供託していること、原告が昭和五〇年四月一八日被告永和不動産に対し、約定通りの賃料支払時期に供託していないことを理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし(以下、本件解除(二)という。)、右意思表示は同日被告永和不動産に到達したことはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで進んで抗弁1について判断する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件賃貸借契約の成立当初から、被告永和不動産は原告に対し、被告ら主張の日時に年一、二回、半年ないし一年分の賃料を一括して支払っていたが、それに対し原告は、賃料額が少額であるため、異議を唱えることなく、右賃料を受領していたこと、

2  原告は、昭和四三年六月分からの賃料の増額請求をし、右請求に対し、被告永和不動産は減額の申入れをしたが、原告は、右賃料の額が未だ定まらないうちに、何等支払いの催告することなく、同四四年一月一四日到達の内容証明郵便をもって被告永和不動産に対し、同四三年六月分から同四四年一月分までの賃料不払いを理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと(右日時に原告が解除の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。)。

3  そこで被告永和不動産は、直ちに原告宅に賃料を持参したが、原告から既に契約を解除したので賃料は受領できないとして受領を拒否され、止むなく昭和四四年二月二四日右賃料を供託したこと(右日時に供託した事実は当事者間に争いがない。)。その後も原告が本件賃料を受領することを拒否するので、被告永和不動産は、同四四年から毎年一〇月にその年の六月から翌年五月分までの賃料を一括して供託していること(右供託の事実は当事者間に争いがない。)。

《証拠判断省略》

以上の事実によりみれば、本件賃料を毎月末日に支払う旨の約定は当初から黙示的に変更されたものと認めることができる。そして、その支払時期及び方法について具体的にどのように変更されたか必ずしも明確ではないが、前記認定1の従前の賃料支払状況の下で、賃料の増額請求がなされ、賃料額につき協議が定まっていない状態では、被告永和不動産の本件賃料の不払いは未だ履行遅滞とはいえず、催告することなくなされた本件解除(一)の意思表示は、その効力を生じないものというべきである。

また、原告は被告永和不動産は約定通り賃料の支払いをなさずに原告主張のような供託をしているので本件賃貸借契約を解除した旨主張するが、原告は、本件解除(一)の意思表示をした後は、前記3認定のように本件賃料を受領しない意思が認められるばかりでなく、前記1に認定した従前の賃料支払状況の下で、被告永和不動産は毎年一回、一年分(七~八ヵ月分の賃料は前払い)の賃料を供託してきたのであるから、被告永和不動産に右の点について何等債務不履行はなく、原告の本件解除(二)の意思表示も、その効力を生じないものというべきである。

三  更に抗弁2について判断する。

《証拠省略》を総合すると、昭和三四、五年頃、被告丸井は、中野区中野三丁目六一番一の土地(旧町名及び地番宮園通五丁目二〇番地一)(以下、単に地番のみを記し六一番一というようにいう。)上に仕入センターを建築するにあたり、荷物の積みおろし、駐車のための土地を確保するために、不動産業者である高田に対し、本件土地を含む宮園通りに面した各土地の買収方を依頼したこと、その結果同三六年二月六日に五九番二(旧町名及び地番宮園通五丁目一六番地二)及び五九番三(旧町名及び地番宮園通五丁目一六番地三)の一部の各土地、同三七年二月一〇日に五九番三の残りの土地を赤羽太平次より、右同日本件土地を原告よりそれぞれ賃借したこと、そして右各賃借人は被告丸井側の事情により同被告の関連会社で、不動産の管理をしている被告永和不動産名義としたが、各賃貸人了解の上で被告永和不動産が右各土地を被告丸井に転貸できることとし、実際は、被告丸井が使用することとしたこと、当時、右各土地には借地人がいたため、被告丸井は右各借地人に相当額の立退料を出費したこと、同三七年二月一〇日付の各契約書には、「賃借人は本件土地を、これと隣接する堅固な建物(宮園丸井本社ビル)の構内の一部として駐車場其他物品置場等に使用することが出来る」旨の記載があること、本件土地を除いた五九番四(旧町名及び地番宮園通五丁目一六番地四)の土地のうちの一三八・八四平方メートルは、借地人との明渡交渉がおくれ、同四三年一月一日になって被告丸井が原告から賃借したこと、の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、借地法一条に規定する「建物の所有を目的とする賃借権」たるがためには、必ずしもその建物の全部又は一部がその借地の上に基礎を置くことを要するものではなく、隣接地の建物を利用するために他の土地を賃借し、これを一体として使用するような場合の賃借権をも含むものと解するのを相当とするところ、前記認定事実によれば、被告丸井は六一番一の土地上に仕入センターを建築するにあたり、右建物を利用する必要上またその利用価値を高めるために、各賃貸人了解の上、被告永和不動産名義で宮園通りに面した本件土地を含む附近の土地を賃借したものであり、現に本件土地は他の賃借土地とともに仕入センターから宮園通りに出入りするために必要不可欠なものとして、また駐車場、物品置場として右六一番一の土地と一体として利用されているものである。従って、本件土地の賃借権も、借地法の適用を受けるものであり、原告の解約申入れの主張は失当である。

四  よって原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 満田忠彦)

<以下省略>

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